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日々とりとめなく思うことをメモするための、備忘録。
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2019年05月04日 (Sat)
その子どもと出会ったのは、月の出ない晩のことだった。
 ……なんて、それらしく回想を始めてみたところで、何も良い話などではない。ほんの3年ほど前のことで、彼は今と変わらずバイトで生活を繋いでいたし。ただし短期か日雇いばっかりだったけど。

 ざっくりと言うなら、給料日に買ったのだった。
 何を? その出会った子どもである。
 悪く言えば、人身売買である。
 良く言えば、まぁ身寄りのない子を引き取ったとも言う。
 だって大安売りだったから、とは後日の彼の弁。
 こんな馬鹿げたこと本気でしちゃう大人、この人くらいだ、とは子どもの弁。

 まあ彼は、今も当時もそれほど大した大人ではなかった。ので、その日もらった給料を懐に暇を持て余していたのだった。
 あまりにも暇で暇で頭がぼーっとしてきて、気がついたら隣の隣の隣の街まで乗合馬車に乗って来てしまっていた。
 うっわ、引く。自分に引くわー。なんて思いつつ、せっかく来たのだから、ついでに数日くらいここで遊んで帰るかとギャンブル施設に足を向けた。これが何か良く分からんうちに大当たりした。
 そこで彼は、たちまち転がり込んできた大金を元手に、さらにギャンブルに――などとはしなかった。
 だって何か運良すぎて不気味だし。明日馬車に轢かれそう。
 なので、宵越しの金を持たないよう、厄払いがてら使い切ってしまおうと思ったのだった。普段なら絶対に取らないランクの宿を手配して、ちょっといい服を買って、気になってた本を数冊買って、絶対に足を向けないような店で食事を摂ってお酒飲んで、それでもまだ余ってるなぁと歩いていたら、
「あっれれ」
 いつの間にか、何かあまり綺麗じゃない路地に迷い込んでいたのである。
「もーこれだから酔っ払いは」
 自虐しつつ頭を掻いて、とりあえず表の通りに戻ろうと辺りを見渡したら、
「……幻覚見ちゃうほど飲んだつもりは無いんだけどなぁ……」
 小さな子どもが、自分を売っていたのだった。
 何か小さな箱に入って、首から「大易売り中(汚い字、かつ誤スペル)!」の札をかけている。
 ぱさついた青い髪の毛は伸び放題で、特に前髪がひどくて顔が見えない。なのに服は小奇麗で、悪臭もしない。
 と、前髪の下から子どもの目が、彼を捉えた気配があった。あちゃぁ。めっちゃ見てるコレ。
「えっと」
「……かう?」
「うーん僕、そういう趣味は無いかなー」
「そっかーざんねん」
 絶対にボク、役に立つんだけどなぁ。
 そんな風に言われたら、何がどう役に立つのか気になる。
「たとえば?」
「お兄さん、見たところ不規則でお給料も安定してないでしょ」
 図星だ。というか、
「なんで急に口調がしっかりしたの?
 というか、その歳でそんな難しい言葉、なんで知ってるの?」
「これ、毎日見てたら何となく」
にこ、と口元で笑んで子どもが指で示したのは、風で飛ばされてきた新聞紙。
「読み書きできるのか! そういえば、その札も自分で?」
「たまーにボクをレンタルしていくオジサンが、少しだけ教えてくれたから。ちょっとした足し算引き算もできるよー。あんまり難しいのは分かんないけどね」
「レンタルって」
「変わったオジサンでね、何か旅の占い師らしくて。
 ボクを買うほどお金はないけど、一晩だけとか、たまにレンタルしてた」
「うう、そ、それって一晩何を……」
「話し相手とか、部屋の掃除とか。
 ま、そのオジサン昨日でまた旅に出ちゃったんだけどね」
 あ、良かった。いかがわしいことじゃなかった。何となく胸を撫で下ろす。無関係とは言え、やはり子どもがアレなことに身売りとかしてる話は聞きたくはない。そう思う程度には、彼にも良識はある。
 さておき。
「読み書きと計算、掃除の他には、何ができる?」
 彼は少し、この子どもに興味が沸いてきた。歳と境遇の割りに、話す言葉は理知的だし相手をよく観察している。こういう部分が、旅の占い師とやらにも面白かったのかも知れない。
 何せ一人の旅は寂しいものだ。ふらりと立ち寄った先で、ふと出会った子どもを適当に相手したくもなるかも知れない。
「えーと、縫い物と編み物はちょっとだけ。服のほつれとかボタン付けるの、好きかも。
 靴磨きも得意だよ」
「……それも、占い師のオジサンが?」
「うん。覚えといて損はしないからって」
「料理は?」
「さすがにむりかなぁ。でも魚と鳥は捌けるし、燻製くらいなら作れる」
「微妙にすごいね」
「だから役に立つって言ったでしょ。ね、どう?」
 やすくしとくよ、と子どもが軽口を叩く。青い前髪の下、ちらりと一瞬見えた目は色こそ分からなかったが、楽し気な光を弾いていたように彼には見えた。
 へぇ、と彼自身の口端も上がるのを自覚した。この子ども、こちらに自分を売り込んで計らせようとしているが、その実相手を計っている。
 別に、子どもにとっては今晩彼が自分を買わなくたっていいのだろう。本当に切羽詰まれば、
また別の手段で口に糊して切り抜ける。そういう逞しさと賢さが、この子どもにはある。
「率直に聞いてみるんだけど。君、本気で僕に買われたい?」
 なので、真正面から斬り込んでみることにした。正直ちょっと酔っておかしくなってたなと、後になって思ったものだ。そもそも『人を買う』という言葉の持つ意味を、お互いにすり合せてすらいなかったし。
 子どもは少しだけ驚いた顔をした。それから少しだけ首を傾げてから、前髪の隙間から彼をじっと見た。
「うん」
「お、言ったな。どんな扱いを受けるかも分かんないのに?」
「お兄さん、変態では無さそうだし。へんなひとだけど」
「へんなひと」
「うん」
 だってそもそも普通の人なら、こんなとこで自分を売り出してる子どもには声かけないよ。
 うっわ正論。紛れもない正論。だがそれを言うなら子どもだって相当変だ。身売り自体はそう珍しいものではないが、変な人と分かっている相手に自分を売り込むなんて。
 そう、明らかにお互いが変なのだが、酔っていた彼はただただそのときの気分に任せて笑ってしまった。
 だってたまたま、その晩使い切ろうと思っていたお金が懐にあったんだもの。仕方ないでしょ、縁ってやつだよ。と、笑う彼の金銭感覚は、一緒に暮らすようになった子どもには理解できないらしい。
「よし、買う」
「やったーありがとうございます! ちなみに期間は?」
「これからずっと」
「え」
 何も考えずに答えたら、子どもの前髪の下の目が丸くなった。ついでに多分自分の目も丸くなってたはず。そんなこと言うつもりなかったから。
 でもまぁ、いっか。細かいことは後で考えよう。
「君の今後の人生を僕は買う。前金として、君の言い値を払おう。それから、今後の衣食住だけは保障する。それ以上は、働き次第かな」
 どう、僕の役に立ってくれる?
 歩み寄って屈みこんで、小首を傾げて尋ねてみる。目線て大事。子どもを誑かすなら、とりあえず自分を小さく見せることからだと彼は知っている。
 子どもは相変わらず大きく見開いたままの目で彼を見て、そして声を上げて笑った。夜の路地裏だから、ちょっと静かにした方がいいんじゃないかなー、なんて彼は思ったが、
「うん、絶対に役に立つから。後悔はさせないよ」
続く言葉は、彼がそれまで生きてきて聞いた言葉の中で最も信用ができなくて、でも男気を感じたものだったので、良しとした。

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